「うん、肺も肝臓も転移は無かったね!」
クルリ、と椅子ごと体をこちらに向けてK先生がにこやかに言う。

思わず「良かったー!」とおなかの底から声が出る。


今日は済生会中央病院。新しく現代的な新館と、古めかしくて暗めな本館がつながって、まるで迷路のような病院だ。ここで手術前に最後の検査。1番重要なのは、CT。


もともとの腫瘍が小さいから、まさかと思ってはいたけど、やっぱり遠隔転移があったらどうしようという不安。


まれに…とても少ないけど…この段階でそれが見つかってしまう人もいる。肝臓や肺に転移があると…それは「どこまで命を引き延ばせるか」という最終ステージを意味する。


今日は夫も一緒だ。

「ご主人もとても心配されていたと思いますけど、安心して下さいね」

コクリ、と頷くだけの夫。よその人から「まるで湖の湖面のような」と評されるほど無口なタチなのだ。


「転移は血流とリンパ、この二つのどちらかにガン細胞が乗って起こります」と先生が続ける。


そういって、診断をどう見たてたのか、重要臓器一つ一つを画面を使って説明してくれる。

それは正直、影や線がたくさん写っていて、私には腫瘍との違いはわからなかったけど、その丁寧さ、に信頼性を感じた。


私は脇のすぐそばにしこりがある。脇にはリンパがたくさんあって、癌はまずここに転移して、全身に広がっていく。だから、いつも不安だった。


K先生によると、
・リンパの流れは、脇から乳輪に流れて、さらにまた脇に戻ると言われている。なので脇にしこりがあっても、すぐに脇リンパに転移するわけでは無い、
ということだ。


そこはガン研有明とは、違う見解なんだなあ、と改めて医療は医者の考え方でずいぶん変わることを実感する。


ガン研有明のI先生は、繊細に言葉を選びながら、「そこは医者によって見解が異なるね。脇に近いとリンパに転移しやすい、って主張する医者もいる」って回答だった。


脇のリンパ転移は、最終的には、手術時に検査してからでないとわからない。あぁ、神のみぞ知る世界。転移が判明すれば、抗がん剤使用の可能性も見えてくる。


この後は手術とその後の治療について。

・ 手術は4/18に決定。前日からの入院。
・ 通常は1週間程の入院。
・ 腫瘍の周囲を2センチ程度くり抜く。全摘にはならないだろう。
・ 手術時にリンパ節を少し取り、転移が無いか、同時に確認する
・ 転移が無ければ、その後は放射線治療とホルモン治療を行う。


「いろいろ不安があったと思いますけど、結果オーライですよ」先生の明るい声に、本当にそうだな、と心から思う。



セカンドオピニオンで新しいしこりが見つからなければ、S大学病院がしこりを見落とさなけば、私は今、安心できる医者に会わなかった。モヤモヤしながら、大学病院で切られてたろう。


もっと言うなら…
2013年の夏に「胞状奇胎」という異常妊娠で、2回手術して…子どもを得て無くすというメンタルの不安定さと、肉体的な手術のつらさと…手術しても「絨毛癌」という癌に5%ー10%の確率で移行する不安と…

とにかくこの頃はグシャグシャだった。ベッドから起き上がれない日があった。


この経験があったから、今、なんとか「乳がん」という病気と渡り合ってる気がしてならない。


物事が起こる、その順番には、全て意味があるんじゃないか。




夫は会社に帰って行った。


外に出ると、小さな子どもを連れた家族連れが、空を指さしている。


真っ青な空と赤い塔。


春は、すぐそこに来ている。
2014-03-24-11-53-05