強そうでいて、いざという時、男は弱い。
私が、父に持ってる印象もそんな感じ。


関西の私鉄職員だった父は、痴漢を捕まえたり、酔っ払いと闘った話をよくしてくれた。それはとても勇ましい物語だったけど、いつぞや自分の体調が悪くて下痢と下血が続いた時は、「俺は大腸ガンかもしらん」って、なかば死を覚悟した顔で半べそをかいていた。それは結局、ストレス性の過敏性大腸炎と痔だったんだけど。

今回の私の乳がん、伝えるのを躊躇したのはそんな背景もあったから。

母から聞いて、父がどう受け止めるのか心配してたけど、今日は直接電話がかかってきた。

「もしもし?はるか?……はるは、元気なんか?…痛いとか、つらいとかないんか?」
なんでもない風を装ってるけど、心配してるのが声のトーンからわかる。

初期だから何の自覚症状もなくて、痛いもつらいも無い、心も落ち着いてるから、大丈夫やで〜、って言いながら、心の柔らかいところが刺激されて、泣きそうになる。「痛いのはかなわんけどな、がんばんねやで〜」と言われて、電話は終わった。

ことわっておくと、私たち親子はそんなに仲がいい方じゃない。弟の死とか、もっといえば子どもの頃からのモヤモヤが、ボンヤリとわだかまりのようにあり、普段連絡は滅多にとらない方。たまの電話も、つまらないことで、言い争いをしたりする。

お父さんが、私のこと心配してるけど、決してパニックになったり、必要以上に悲観的になったりしてなくて、安心した。



今日は外出から帰ったら、カレーができていた。

新しいクライアントさんの事前アンケートが届いていた。

父からの電話があった。

癌だけど、シアワセ、な一日だった。